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俺はアイツが嫌いだ

 入学式の日、通学路の桜並木。 こいつらみんな一年生かぁ、と黒山の人だかりに流されるまま歩いていると、何気なくパッと顔をあげた先で視線がぶつかった。たぶん一目惚れだった。 翌日、そいつが男だと知って小さくショックを受けた。たぶん失恋だった。…

反射

「…アンモナイトだ」「はい?」「アンモナイトだよ。遊食アンモナイト。炭酸カルシウムが折り重なって七色に光るんだって。あんたの目はその色をしてる」「…初めて言われましたね」「あっほんと?七三のハジメテ、奪っちゃった?」「…」「あっ勿体ない!も…
走って帰ろう

走って帰ろう─02.ひかりのむこう かげのがわ

 ごうん、ごうん、と洗濯機が唸っている。校内に設けられた、生徒用のランドリールームに斑と光は来ていた。何台もの洗濯機がずらりと並び、そのどれもが稼働しているせいでなかなか騒音レベルが高い。脱水が終わるまであと数分だ。そっけないパイプ椅子が軋…
走って帰ろう

走って帰ろう─01.猫を追う

 猫の影が見えた気がした。  しゅるり、と尻尾の先が茂みに消えていった気がしたのだ。そういえばレオさんが猫をかわいがっていたのだっけ、と斑は旧友のことを思い出す。その猫かどうかはわからないが、学院には猫やら犬やら複数種類の動物が出入りしてい…

おもかげさがし

 右手でタバコをくわえ、ポケットからライターを取り出し、点火して一呼吸目。伊藤は白く濁った煙を吐きながら、コンビニの裏手口の壁にもたれかかる。寒さで白くなる息とは違う、不透明で淀んだ白。片腕だけで生活するのにもずいぶん慣れてしまった。もう三…

痛みの味

「順平と喋るのはストレスがなくていいね」 真人は満足気に唸り、大きく背伸びをした。ハンモックがゆうらりと左右に振れる。「あんまり動くと落っこちますよ」 へいきへいき、と真人は順平の注意を軽くいなした。「順平、なに?」「いいえ、なんでも」「ふ…

はびこる

 あれ以来、隣の部屋はそのままになっている。 あいつの私物はもとから少なかった。鞄ひとつに納まるものしかなくて、必要最低限の着替えくらいしかそれらしきものは持ち込んでいなかった。恵も私物は多いほうではないが、一度だけちらりと見えたクローゼッ…