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暁闇-明星に請う

「あれ、先客がいたんだ」 扉を開けた途端、海風がふわりと吹雪の髪を膨らませた。時刻は明け方四時。月は沈んでしまっているが、太陽が昇るにはまだずいぶんと余裕がある。 夜闇の面影を残す空を背景に、その少年は甲板にひとりきりで立っていた。「誰?」…

宿罪の銀花-2.春爛漫

 朝、一時間目の授業はまだ眠くてしょうがない。 うとうと船を漕ぐ吹雪へ向けて、おい、終わったぞと亮は声をかける。 がくん、と首が落ち、吹雪はハッと目を醒ました。「あー……ボク寝てた?」「寝てた」「もうちょっと早く起こしてくれてもよかったのに…

宿罪の銀花-1.永遠の証明

 籠の中には色とりどりの花が咲いている。 黄色、白、ピンク。何色ものガーベラがそこにはバランスよく詰め込まれていた。先週注文した花束が今日やっと届いたのだ。 デュエルアカデミアは離島であるため、私物を購入できるタイミングは週に二度の定期便の…
ティーンエイジの肖像-#01 青い髪の転入生

ティーンエイジの肖像-#01 青い髪の転入生

 うららかな春の日だった。 木漏れ日が溢れるベンチに座り、亮はデッキを最終確認する。《サイバー・ドラゴン》。愛着があり、伝統あるサイバー流のカードだ。亮はとりわけ、この《サイバー・ドラゴン》のカードが気に入っていた。特殊召喚のしやすさもある…
溶暗

溶暗 fade-out

 蓋を回し開けるとコーヒーの香りが鼻をかすめた。だいたいこんなものだろう、とスプーンで大雑把にそれを掬い、まだ空の水筒へざらざらと落としていく。 コンロに掛けた二種類の小鍋が丁度沸いた。片方はお湯で、もう片方は牛乳だ。この牛乳特有の乳臭さが…

きみを馳せる

『ああそれ! クリスマスプレゼントだよ!』 電話口で彼はあっけらかんとした口調でそう言った。「気持ちはありがたいんだけどさ。吹雪、きみの中のサンタクロースは南半球の設定なのか?」 二つ折りの携帯電話と耳と肩の間に挟み、優介は手にしたそれを広…
味気なくもない男

味気なくも無い男

 クリームチーズとサーモンが乗ったクラッカー。二色のオリーブで生ハムを挟んだ小さな串。深緑色が鮮やかなパテに、三角に切られたキッシュ・ロレーヌ。会場の無数の照明を浴び、それらはいきいきと光を反射している。だがこの程度の立食パーティーなんて、…
海が呼んでいる

海が呼んでいる

 どうせサボるならビーチコーミングに行こう、と提案すると、なんだいそれ、と優介はこちらへ目を合わさないままに返事をした。「漂着物の観察のことさ。砂浜を歩きながらそこに落ちてるものを色々見てみるんだよ」「つまりただの散歩ってことか?」「そんな…