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旅は道連れ世は情け─1.容疑者K

旅は道連れ 世は情け花に嵐の喩えもあるささよならだけが人生だ最初で最後のデートをしようあの日の続き漂流する今未来に未練を残さないため埋めた死体を数えよう誕生日にはお祝いしようそしてぼくらは旅に出た八月の終わり。その日は一日中妙な天気だった。…

袖擦り合うのも他生の縁

「もしもさぁ」 奏汰の背中へ薫は呼び掛ける。青暗い館内は水槽の照明のおかげでほの明るく、まるでクラゲ自身が発光しているかのようだ。奏汰は水槽のガラスに片手をついたまま、ソファーベンチに座る薫へ振り向く。「もしも?」「……もしも、俺たちが、も…

3月31日を忘れるな

 n度目のループ。4月2日の朝。『3月31日を忘れるな』『この紙は捨てるな』というメモが机に置いてあった。明らかに自分の字だが書いた記憶はない。変なの、と思いつつ引き出しの奥へ投げた。 メモのことなんてすっかり忘れていたが、どうもあちらこち…

臆病者の偽楽園

「レオハウス作ったから、来て」 唐突にあいつから電話がかかってきた。いや、あいつからの電話が唐突でなかったことなどないし、それにこれまでの経緯や置かれている状況を鑑みればさほど不思議でもない。 着くやいなや、レオは顔面に本を広げて突き出して…
たまご色の憂鬱

たまご色の憂鬱

 朝。薫がリビングへ向かうと、ソファーの影から何者かがむくりと起き上がった。ちかごろ薫の自宅に寝泊まりしている奏汰だ。薫よりも一足早く目を覚ましていたようでリビングで待っていたのだろう。 目を擦りながら奏汰は開口一番「なんですか、これ」と言…

門出

「羽風さんの、新たな門出を祝って!」 ADは薫へ花の咲いた鉢植えを手渡した。鉢をぐるりと囲むリボンには〝羽風薫様へ 夜闇ラジオ制作スタッフ一同より〟と印字されている。「ありがとうございます。ここでの収録は本当に楽しくて、俺にとってとてもいい…

地獄道中─夢中夢

 オブラートが嫌いだった。 それは、粉薬を包み込むオブラートとしても、婉曲的に語るときのオブラートとしても。もっと素直に言ったらどうだ、はっきりしない曖昧な言い回しが苦手で、苦笑いを浮かべる相手から無理やりに聞き出したこともある。 薬を飲み…

たった一言でいいから。

 引き戸がガタガタ揺らされている。隙間からは下手くそな口笛のような音が勢いよく漏れていた。今夜は大雪になるらしい。雪の礫混じりの強風は、築ウン十年のこの家を丸ごと薙ぎ倒してしまうんじゃないかとすら脳裏によぎった。(ま、お師さんン家やし、そん…

nowhere

「エレベーター? ヤです。あれ、『ふわっ』ってなるじゃないですか。ただでさえ、こんなにふわふわしてるのにもっとふわふわしたものに乗るなんて、司がどこか飛んでちゃってもいいんですかぁ。せなせんぱぁい」「ああ、もうっ……。この、クソガキっ」 ア…

カーテンの内側で約束した

 クリーム色のカーテンが風のかたちを柔らかく捉えている。このダンスルームはいま無人のはずで、なのにカーテンの下から人間の足が生えていた。薫はほとんど"ガワ”だけの薄っぺらな鞄を肩にかけ直し、窓辺に近寄る。 カーテンの裾をめくり、何見てるの、…