再録

同人誌のweb再録

よすがらを往く-00.酔夢

 繁華街をうねるように抜けた先の小路、切れかけのネオンが不規則に点滅していた。ビルとビルの間に挟まれ、頭上には埃を被った配線や換気扇。敷き詰められたパイプのは、まるでなにかの暗号だ。空は細長く縦に切り取られ、天上ははるかに遠い。 足元には何…

暁闇-02.明星に恋う

 あの星明かりを見ただろう? 日が暮れ落ちたら顔を出し、月が昇れば居なくなる。そうして夜が終わるころ、再び明るく輝いて、朝日の中へ消えていく。たったひとりで粛々と、夜の底へも行けなくて、真昼の空にも出られない。 それがどうにも愛しくて、この…

暁闇-01.明星に請う

「あれ、先客がいたんだ」 扉を開けた途端、海風がふわりと吹雪の髪を膨らませた。時刻は明け方四時。月は沈んでしまっているが、太陽が昇るにはまだずいぶんと余裕がある。 夜闇の面影を残す空を背景に、その少年は甲板にひとりきりで立っていた。「誰?」…
午前10時のユウレイクラゲ

午前10時のユウレイクラゲ─07.この世にたった一人だけ

 ──記憶があるのは幸せなことだろうか。記憶があるから生きられるのだろうか。 無機質な灰色の天井。空調から吹く風にかすかに揺れるカーテン。悠仁は高専の医務室で目を覚ました。そっと両瞼が開けられ、ベッド脇に座っていた七海と目が合う。「起きまし…