真人

午前10時のユウレイクラゲ─05.もしもともしもの交差点

「宿儺は映画館ははじめてだったりする? 面白いよ。俺たちは座ってるだけでいい」  真人は座席に深く腰かける。館内は明るく、スクリーンにもなにも映っていない。どうやら上映(プログラム)がひとつ終わったタイミングのようで、足元には前の客が残した…
午前10時のユウレイクラゲ

午前10時のユウレイクラゲ─04.まどろみパラレル叙述伝

 ひっそりと夜が明け、朝焼けの光が窓に差し込んでくる。薄紫に染め上げられた部屋。質素な家具と、床には中身が入ったままの段ボールが二箱。ハンガーにかけられた黒い制服には埃ひとつ付いていない。  丸く膨らんだ布団はかすかに上下し、深い寝息を立て…
午前10時のユウレイクラゲ

午前10時のユウレイクラゲ─03.名無草、根無言、蛻の夏

 なんだと思う、と質問で返された。「図鑑ですか」「うん、そう」 足元には分厚く重そうな本がどっさりと積まれていた。動物、植物、天文、気象、鉱物。専門的な学術に用いるような形式ばったものから、子供向けに柔らかい口調と振り仮名が使われたものなど…

反射

「…アンモナイトだ」「はい?」「アンモナイトだよ。遊食アンモナイト。炭酸カルシウムが折り重なって七色に光るんだって。あんたの目はその色をしてる」「…初めて言われましたね」「あっほんと?七三のハジメテ、奪っちゃった?」「…」「あっ勿体ない!も…

おもかげさがし

 右手でタバコをくわえ、ポケットからライターを取り出し、点火して一呼吸目。伊藤は白く濁った煙を吐きながら、コンビニの裏手口の壁にもたれかかる。寒さで白くなる息とは違う、不透明で淀んだ白。片腕だけで生活するのにもずいぶん慣れてしまった。もう三…