君の命日まで

「もー、いーくつ寝ーるぅと、おーしょーう、がぁつ」

 清潔な白に囲まれた部屋。英智は横たわったまま、外の世界を切り取るには些か狭すぎる窓へぼんやり顔を傾け、口ずさむ。

「あと340日くらいはありそうですねぇ」

 水を入れ替えた花瓶に花を挿し戻しながら渉は言った。

「ただこの部屋では、季節感も何もありませんから。英智がそう感じるのも無理はないでしょう」

 現に、花瓶に生けられているのも一年中咲くように品種改良された花だ。お見舞い向けの花、と言っても過言ではない。

「ねえ渉」

 窓の向こうは雪がちらついているが、病院の上層階に位置するこの部屋からは灰色に汚れた雲しか見えない。

「僕の命日まであと、どれくらいだと思う?」

 そう紡いだ横顔は病魔のせいで一層青白く、化け物染みた狂気的な美しさを携えていた。

「さあ、どうでしょう。右手の人と違って、私は死神ではありませんから」

「ああ……。敬人は線香臭いからね」

「英智、あなたが以前、そう仰っていたのですよ」

「ふふ、そうだったかもしれないね」

 

 ベッド脇の丸椅子に渉は座り、点滴の刺さってないほうの腕を手に取り、脈に指を添えた。

「死神よりも、私は天使でありたいのです。あなたを暖かく迎え、天国に導いてさしあげます。英智、あなたの命日まであとどれくらいでしょう?」
 
 
 


お題:「君の命日まであとどれくらい?」という文を使ってSS