再録

同人誌のweb再録

旅は道連れ世は情け─3.束の間のワルツ

 十月の末。秋。 乾いた空気が頬を撫でる。いつもと違うスーパーへ行ってみたくて、散歩がてら二人で並木道を歩いていた。薫が「寒くなってきたね」とぼやけば「もうすっかり『あき』ですね」と奏汰は返した。 街並みはすっかりハロウィンムードになってい…

旅は道連れ世は情け─2.蔵匿罪

「朔間くん、羽風くん、お疲れ様」「ああ、ありがと」マネージャーから冷えた水のボトルを受け取る。今日は零と二人での撮影の仕事だった。上々の出来だ。薫は貰った水をちびちびと飲みながらスマートフォンでニュースサイトを開く。「おや、買い換えたのじゃ…

旅は道連れ世は情け─1.容疑者K

旅は道連れ 世は情け花に嵐の喩えもあるささよならだけが人生だ最初で最後のデートをしようあの日の続き漂流する今未来に未練を残さないため埋めた死体を数えよう誕生日にはお祝いしようそしてぼくらは旅に出た八月の終わり。その日は一日中妙な天気だった。…

袖擦り合うのも他生の縁

「もしもさぁ」 奏汰の背中へ薫は呼び掛ける。青暗い館内は水槽の照明のおかげでほの明るく、まるでクラゲ自身が発光しているかのようだ。奏汰は水槽のガラスに片手をついたまま、ソファーベンチに座る薫へ振り向く。「もしも?」「……もしも、俺たちが、も…
たまご色の憂鬱

たまご色の憂鬱

 朝。薫がリビングへ向かうと、ソファーの影から何者かがむくりと起き上がった。ちかごろ薫の自宅に寝泊まりしている奏汰だ。薫よりも一足早く目を覚ましていたようでリビングで待っていたのだろう。 目を擦りながら奏汰は開口一番「なんですか、これ」と言…

門出

「羽風さんの、新たな門出を祝って!」 ADは薫へ花の咲いた鉢植えを手渡した。鉢をぐるりと囲むリボンには〝羽風薫様へ 夜闇ラジオ制作スタッフ一同より〟と印字されている。「ありがとうございます。ここでの収録は本当に楽しくて、俺にとってとてもいい…