『瀬名先輩と一緒に死にたかったのに、”また”死ねませんでしたね』
心中に失敗した司と泉は、接触による精神悪化を防ぐため別々の病院に搬送されていた。
なぜあんなことをしたのか、と病室でひとり放心する泉のもとに、どこから嗅ぎ付けたのか入院着のままの司が訪れる…
「また? あれは昨日が初めてでしょ?」
司は別の病院にいるはずではなかったのか? 情報はどこから漏れたのか?
「病院抜け出すなんて行けない子だねぇ」
司はそっと微笑み、泉の入院着に手を伸ばした。
『お忘れですか瀬名先輩。約束したじゃないですか、司と死んでくれると』
しゅるり、と服の結び目が解かれる。
ベッドに縫い付けられたみたいに体が動かない。
腹部の手術跡がずきずき痛む。
司は泉の服を愛おしそうに脱がせ、鋏をかざした。薄闇の病室で銀色が鈍く光る。
「……っ、かさくん、やめて」
包帯とガーゼが切られていく。司の表情は暗くてよくわからないが、小刻みに震えているように見えた。
「かさくん、やめて」
脂肪のない薄い身体が露わになる。
切れ端になった包帯を取り払い、血糊が染み込んだガーゼが引きちぎられた。
『約束したじゃないですか、司と死んでくれると』
縫われたばかりの真新しい傷と、まだ抜糸していない傷がもう二本、泉の腹を引き裂いていた。
「あ……、これ…」
『お忘れですか瀬名先輩』
泉の頭のなかで司の声が繰り返される。
一度目は朱桜邸で司に無理心中を迫られて。
二度目は司を後追いしようとして。
今日こそ本当に死ぬつもりだった。
『約束したじゃないですか、司と死んでくれると』
鋏だけが赤く光っていた。